人生設計の引き出し

安心して老後を過ごすために。今から始める終活のやさしい始め方

Tags: 終活, エンディングノート, 老後, 人生設計, 遺言書

退職後の生活に慣れてきた頃、ふと「将来のこと」や「もしもの時」について考える機会が増える方もいらっしゃるのではないでしょうか。特に「終活」という言葉を耳にするものの、何から手をつけたら良いのか分からず、漠然とした不安を感じているかもしれません。

終活は、決して縁起の悪いものではありません。むしろ、残りの人生を自分らしく、心穏やかに過ごすための「人生の棚卸し」であり、大切なご家族への「思いやり」の形でもあります。この「人生設計の引き出し」では、複雑に考えがちな終活を、やさしいステップで一つずつ紐解いていきます。

終活とは?人生を整理し、未来を整えること

終活とは、人生の終わりに向けて、自分自身の希望や情報を整理し、残された方が困らないように準備をしておく活動のことです。具体的には、以下のような目的があります。

ステップ1:気持ちの整理と「エンディングノート」の活用

終活の第一歩は、ご自身の「気持ちの整理」から始めるのがおすすめです。まず、自分の人生を振り返り、「どんな風に生きてきたか」「これからどうしたいか」「大切な人に伝えたいこと」などを思いつくままに書き出してみましょう。

この時に役立つのが「エンディングノート」です。エンディングノートには法的な効力はありませんが、ご自身の希望や大切な情報を自由に書き残しておくことができます。市販のものもありますが、手持ちのノートで自由に作成しても構いません。完璧を目指さず、まずは気軽に、書きやすいところから始めてみましょう。

エンディングノートに書いておくと良いことの例:

[図1:エンディングノートに書きたい情報の項目例]

エンディングノートは、一度書いて終わりではなく、気持ちの変化や状況の変化に合わせて、見直したり書き加えたりしていくことが大切です。

ステップ2:大切な人への思いを伝える「遺言書」

エンディングノートとは異なり、「遺言書」は法的な効力を持つ書類です。ご自身の財産を誰にどのように分けるかを法的に有効な形で意思表示したい場合に作成を検討します。

遺言書にはいくつか種類がありますが、一般的には以下の2つがあります。

遺言書は、残されたご家族が相続で揉めることを防ぐためにも非常に有効です。複雑な財産がある場合や、特定の財産を特定の人物に遺したい場合は、法律の専門家(弁護士や司法書士など)に相談することをおすすめします。

ステップ3:資産の整理と管理

ご自身の資産状況を把握し、整理しておくことも終活の重要な要素です。預貯金、不動産、有価証券、保険、年金、退職金など、どのような資産がどれくらいあるのかを一覧にしてみましょう。

また、近年ではパソコンやスマートフォンの中にあるデータ、インターネットバンキングの口座、SNSのアカウントなど、「デジタル資産」も増えています。これらの情報も、パスワードの管理方法や、万が一の時に家族がアクセスできるようにするための情報を整理しておくことが大切です。

具体的な資産の整理方法は以下の通りです。

資産整理は、ご自身の財産状況を把握するだけでなく、今後の生活設計や資産運用を考える上でも役立ちます。必要であれば、ファイナンシャルプランナーなどの専門家にご相談いただくこともご検討ください。

ステップ4:お葬式とお墓、身辺整理の考え方

人生の終わりに関する具体的な希望についても考えてみましょう。

これらは、ご家族と話し合いながら決めていくことも大切です。

また、「身辺整理」も終活の一部です。大切な思い出の品、日常的に使っているもの、そしてあまり使っていないけれど捨てられないものなど、ご自身の持ち物を整理してみましょう。無理に捨てる必要はありませんが、ご自身が本当に大切にしたいものを見極める良い機会にもなります。

ステップ5:医療・介護の意思表示

健康なうちに、将来の医療や介護に関するご自身の希望を明確にしておくことは、ご家族の負担を減らし、ご自身の尊厳を守ることにつながります。

また、将来、認知症などで判断能力が低下した場合に備えて、「任意後見制度」の利用を検討することもできます。これは、ご自身が元気なうちに、将来後見人になってもらう人をあらかじめ選び、どのような支援をしてほしいかを契約しておく制度です。

終活は「今」から「無理なく」始めることが大切です

終活と聞くと、一度に全てを完璧にしなければならないと思いがちですが、そのようなことはありません。まずはエンディングノートの気になる項目を一つ書いてみる、不要なものを一つ整理してみるなど、小さな一歩から始めてみましょう。

人生は常に変化しますので、一度決めたことでも、後から見直したり変更したりして構いません。ご自身のペースで、楽しみながら、時にはご家族と相談しながら、ゆっくりと進めていくことが大切です。終活を通して、残りの人生をより豊かに、安心して過ごせるよう、この「人生設計の引き出し」がそのお手伝いとなれば幸いです。